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高知交響楽団 |
第1793回トヨタコミュニティーコンサート in Kochi 高知交響楽団第168回定期演奏会
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会場 高知県立県民文化ホール(オレンジホール) |
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終演後
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曲 目 |
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ボロディン 歌劇「イーゴリ公」より「韃靼人の踊り」
シベリウス ヴァイオリン協奏曲
ラフマニノフ 交響曲第2番 |
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指揮者 |
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秋山和慶
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ソリスト |
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堀米ゆず子
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出演者 |
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ゲストコンサートマスター 山口裕之
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はじめに
高知交響楽団は、昨年楽団創立90周年を迎えました。こうした節目の年は、自治体等からの助成を得やすいことから、予算規模を拡大して、高知では演奏される機会が少ない大編成の曲を取り上げる、あるいは著名なソリストを迎えるなどした記念演奏会を開催すべく準備を進めていました。ところが、思いもよらぬコロナ禍のため、特別企画は断念せざるを得ないばかりか、演奏会の開催そのものも危ぶまれる状況となってしまいました(実際、6月に予定していた演奏会は一旦8月に延期した末に、結局中止することになりました)。このことは、私たちを応援してくれる地域の人々を失望させただけでなく、団員の意欲減退も招く憂慮すべき事態を招きました。何か打つ手はないものかと考えていた時、TCC企画提案コースJAO提案型のことを知りました。これならば、団員の大きな目標となり、長引く不安定な状況を打開することができるに違いありません。
そこで、実施体制には大いに不安がありましたが、ダメ元で応募したところ、幸運にも採択していただくことができました。
準備
そもそも十分な技術やセンスを持ち合わせていない下手の横好き集団が、せっかくいただいたチャンスを無駄にしないためには、特別な工夫と努力が必要だと考えました。そこで、個人レベルでは秋山先生の最初のリハーサルでの自分のあるべき姿をしっかりイメージし、そこから逆算して毎月の到達目標を明確に定め、細かいスパンでその達成状況を見極めるよう繰り返し呼びかけました。オーケストラ全体では、アンサンブル力が弱く、コンサートマスターに合わせるという基本中の基本すらきちんとできていなかったのですが、そのまま山口先生をお迎えしたのでは、まさに豚に真珠です。演奏中に山口先生から発せられる様々なシグナルを絶対に見逃さないための訓練を最重点課題にした合奏練習を繰り返しました。
一方、集客面では、今回の演奏会の事実上のメインともいえる堀米先生のヴァイオリン協奏曲を、できる限り多くのお客様、特に現在ヴァイオリンを勉強している子供たちに聞いてもらいたいと考え、県内でヴァイオリンを指導している先生方を個別に訪問し、生徒さんへの宣伝を依頼しました。
演奏会の概要
指揮の秋山和慶先生、ヴァイオリンソロの堀米ゆず子先生、ゲストコンサートマスターの山口裕之先生という、超一流の音楽家の皆さんとの同時共演は、楽団の90年の歴史の中でも初めての大きな出来事であり、団員一人ひとりにとって、学ぶことの多い、極めて有意義な演奏会だったと思います。リハーサルから本番を通じて明らかになったいくつかの課題については後述しますが、前もって準備したことは決して無駄にはならず、この間団員が学んだことは、楽団の財産となって引き継がれていくに違いありません。
プレイガイドや楽器店など、前売り券販売委託先での販売実績は247枚に上りました。過去20年間の平均は74枚ですので、これを大きく上回る最高記録でした。このことは、団員とは接点がない地域の音楽愛好者の関心が極めて高かったことを明確に示しており、地域のニーズにも的確に合致した企画であったことが証明されたと考えています。また、小中高生券の販売枚数は、過去20年間の平均23枚の2倍以上となる51枚を記録しました。この中には、ヴァイオリンを学ぶ子供たちも含まれていると思われ、ねらい通りの成果が得られたと考えています。
一方で、コロナウイルス感染症の第7波に差し掛かり、高知県内でも新規感染者数の急増が報じられ始めた影響でしょうか、前売り券販売数に対する入場者数の割合はおよそ80%程度にとどまり、やや残念な結果となりました。
しかし、アンケートに記載されたお客様の感想は極めて好意的で、この企画を絶賛するものが大半でした。楽団としては、事実上の創立90周年記念公演と位置付けて実施した演奏会でしたが、それにふさわしい反響を得ることができたと考えています。
SDGs企画
今回は真夏の演奏会であったことから、冷房温度の適正化による温室効果ガス排出量削減がタイムリーなテーマではないかと考えました。そこで、会場のエアコンを演奏に支障がない範囲で通常よりもやや高めの温度に設定し、クールビス(ノージャケット、ノーネクタイ)での演奏を実施しました。温度や湿度は楽器のコンディションにも大きく影響するため、団員の中には指揮者やソリストの理解が得られるかどうかを心配する声もありましたが、どの先生も快く趣旨に賛同してくださいました。また、来場者のSDGsに対する意識啓発のため、SDGsを意識した団員たちの日ごろの行動を資料化し、パンフレットとともに配布しました。
この取り組みに対するアンケートへの回答を見ると、おおむね趣旨に共感していただいたと思われます。ただし、中には「コンサートは目でも楽しむものでもあり、舞台衣装としてのクールビズは考え直した方が良い」とのご意見もありました。たしかに、そのような演奏会の楽しみ方もあると思いますので、ただノージャケット、ノーネクタイにするだけではなく、「お客様に見ていただく衣装」としての工夫が必要であったかもしれないと考えています。
残された課題
このようなすばらしい機会を与えていただきながら、楽団側の受け入れ態勢、特に技術面で十分な準備ができていなかったことは、今後の大きな課題だと考えています。人口が少ない地方都市にあって、慢性的に団員不足状態で活動している高知交響楽団は、団員の技術レベルに大きな幅があります。日ごろの合奏練習は、どうしても平均的なレベルに合わせて進めることになりますが、結果として、技術的に未熟な団員は、徐々に取り残されていくことになります。そして、それは仕方がないことだと皆があきらめていました。ところが、秋山先生はこうしたことに一切妥協することなく、技術が未熟な団員に対しても、例外なく粘り強く指導してくださいました。このため、限りある貴重なリハーサルの時間の多くが、本来自分たちで解決しておかなければならない基礎練習のために費やされてしまったことは、極めて残念と言わざるを得ません。今後は、こうした点を大いに反省し、日ごろの練習から「誰ひとりとして取り残さない」というSDGsの基本コンセプトにも通じる意識と体制で、活動していく必要性を強く感じました。
おわりに
今回は、TCCの中でもJAO企画の第1回目ということで、「恥ずかしい先例にだけはならないようにしよう」ということを目標に、精一杯努力したつもりでした。しかし、準備を進める中で、技術力はもちろんのこと、組織力や運営力の脆弱さが次々と露呈し、「そもそも私たちはこの企画に応募してはいけなかったのではないか」という思いが何度も頭をよぎりました。それでも、トヨタ自動車及び地元販売店の皆様、そしてJAOからの絶え間ない絶大なご支援のお陰で、どうにか事業を終えることができました。振り返ってみれば、上記の目標が達成されたとはとても思えませんが、ご支援いただいたすべての皆様に深く感謝いたします。
今回の企画には、日ごろクラシック音楽にあまり馴染みのない人達までをも強く引き付けるほどの爆発的な派手さや訴求力はなかったかもしれませんが、SDGsという世界共通の目標について、先導的に意識啓発するという企業や文化団体の社会的責任を果たしながら、いつか一流の音楽家と共演してみたいというアマチュアオーケストラの素朴な希望と、良い音楽を安価で気軽に聞きたいという地域のニーズに的確に答えた、優れた事業であったと思います。
これからも、このような企画で日本各地のアマチュアオーケストラをご支援いただくよう、お願いいたしまして、この稿を閉じます。
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TCCバナー |
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堀込ゆず子先生 |
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